
金澤幸雄です。
先月14日、旅行会社大手のJTBが東京都品川区天王洲にある本社ビルを含む、自社ビル2棟を売却し、売却先は非公表ではあるものの、イギリスの不動産ファンドであるサヴィルズ系列のファンドが約200億円で取得したようだ、というニュースを読みました。
旅行会社で言うと、東京都港区のエイチ・アイ・エスも、9月1日付で本社オフィスを三井住友ファイナンス&リース株式会社が100%出資するSMFLみらいパートナーズに325億円で売却しています。
この2社のような大手企業が自社オフィスなどの不動産を売却するときは、売却先と賃貸契約を結ぶという形で元自社オフィスをそのまま利用するという「セール・アンド・リースバック」というスキームが採用されることが多くあり、この2社もこの手法を取り入れてオフィスを継続利用しています。
「継続して使うオフィスをわざわざ(ファンドなどに)売ってそこから借りなおすより、そのまま不動産として所有しながら使っていた方がいいのでは?」との考え方もありますが、実は、このスキームはオフバランス化の手法の一つで、負債の圧縮ができたり、売却益の計上ができたりするなどのメリットがあります。
現金化できる可能性が低く「売りにくい」不動産をどうにか現金にすることで、(借入金がある場合は)借金返済して自己資本比率を高められるほか、総資産を減らすことでROA(総資産利益率)の向上が期待できます。一般的に、ROAの数値が高いほど効率的な経営ができていると評価されます。
少ない総資産で多くの利益を生む不動産が、より優れた投資対象となるということですから、各社とも、資産の入れ替えに伴う不動産売却を進め、分母である総資産を減らすのが狙いでしょう。
また、売却損が発生する場合は、損益通算(不動産売却で出たマイナスを不動産売却以外のプラスと相殺する)で決算対応や、特別損失の発生により節税効果も期待できます。売却で得た資金を自社ビルの想定利回りを上回る利回りで運用できれば、ROE(自己資本利益率)の改善にもなります。
ここまでお読みくださった方はお分かりかと思いますが、逆に言えば、このセール・アンド・リースバックというスキームはその企業の資金が潤沢な場合はほとんど採用されません。JTBやエイチ・アイ・エスの場合は、コロナ禍が長く続き、旅行の需要低迷も長期化するなか、手元に少しでも高い流動性を持つ資金を確保しておきたいというところでしょうか。
金澤幸雄