仕事のお話 -梓弓(あずさゆみ)

著作者:freepik

タイタンキャピタルの金澤幸雄です。

「梓弓(あずさゆみ)、引く手はいかに強くとも、的つらぬくは心なりけり」

これは、明治から昭和にかけて活躍した医師であり政治家の後藤新平が欧米を訪れる際、後藤の母が送った短歌です。

後藤新平をご存じない方へ余談になるのですが、政治家の板垣退助が自由民権運動の演説会で暴漢に襲われた際、負傷した板垣の治療を当時愛知医学校の校長を務めていた後藤が引き受け、板垣は一命をとりとめたという史実が残っています。そして、この襲撃事件がきっかけで「板垣死すとも自由は死せず」という名言が生まれたのはあまりにも有名な話です。

冒頭の歌は「的を射るために重要なのは、力の強さではなく心のあり方である」という意味です。

力技ではうまくいかない、これは仕事においても言えることで、何かのプロジェクトを進めようとするとき、上から指図するだけでは内部から反発が生まれるでしょう。また、ただ技術や知識があるだけのリーダーが先頭に立っていても他の人は動いてはくれません。人から受けた恩を忘れず、すべてに対し誠意と真心をもって事に当たらなければ、本当に成果を上げることは難しいのです。どれだけ駆け引きに長けていようと、優れたスキルを持っていようと、目標を見据えず、ただがむしゃらにその「力」を振りかざしているだけでは、決して成果は得られないということです。

私たちは日々、働いています。上司から指示された仕事や自分で見つけた仕事、自分のため、家族のための家事、生活のための営み、対価を得られるもの、無償のものなど、種類はさまざまですが、その仕事ひとつひとつに対して「何のために行っているのか」「どのような成果を目指すのか」、また「誰のおかげでこの仕事ができているのか」という意識を持って取り組んでいる人はどれくらいいるでしょうか。

どんな小さな仕事も、意識をもたなければただの作業であり、そこから何かを生み出すことは難しいでしょう。ただ言われたことをこなすとか、生きるために無心でやるとかではなく、そこに「感謝の心を込める」ことが何よりも大切なのです。

私もこの「感謝の心を込める」ことを意識するようになったからこそ、今の自分があるような気がしています。人への感謝、ご恩が何倍にもなって返ってきたことはとてもうれしく、そして「もし私が感謝の心がなく恩知らずの人間だったら、ここまでの成功はなかった」と気を引き締めるのです。

ただ、能力や努力があるだけでも、ある程度の成果は得られます。ただそれに慢心していれば、本当の意味での「的をつらぬく」ことはできません。それぞれの仕事に感謝と誇りを持ち、目的を見据え、意思を持って取り組むことで、仕事は単なる作業ではなく、何倍もの価値を生む行動へと昇華させることができます。私も今以上に日々の仕事に心を込め、より大きな成果を目指していきます。

金澤幸雄